第六百九十四段 紫香楽の狸の置物
昔、男ありけり。今も男あり。
その男、金を借りずに生活が出来る様にとの願ひから、
縁起を担ぎ庭に「花梨」を植ゑけり。
また、「難を転づる」との語呂合わせから
やはり庭に「南天」も植ゑけり。
しかして、実家は商家にありければ
「他を抜き」つまり【た(を)ぬき】➡「狸」が
商売の繁盛をもたらすであらうとの意味から、
店先に紫香楽の狸の焼き物が置かれてゐたり。
その狸を想ひ歌を
紫香楽の 狸の相の 八相に
現世利益の 願ひ切なり
と 詠みしかど、時 既に遅く
家業傾き廃業の憂き目に遭ひけり。
因みに紫香楽の狸の八相とは
笠 悪事災難から身を守る
眼 周囲を見渡し正確なる判断
顔 愛想よくにこやかに
腹 大胆にして大なる器
通帳 信用
徳利 人徳
金袋 金運
太き尻尾 終はりよければ全て良し
とぞいへり。