第六百七十段 宇津の谷峠
昔、男ありけり。今も男あり。
その男、平成二十九年十月
駿河の国は伊勢物語の第九段の舞台となりたる
宇津の谷峠へと行きけり。行きて歌を
駿河なる 宇津の山路の うつつにて
旅の歌人 あまたが浮かぶ
江戸の代の 大名行列 如何にして
宇津の谷峠 越えゆきたるや
莫大の 費えを用ひ 大名の
参勤交代 江戸へと向かふ
すずろなる 目には遇はずに 帰り来ぬ
君が運転 頼もしくして
と詠み本家の「伊勢物語」の第九段の三河の八橋の後は
【ゆきゆきて駿河の国にいたりぬ。宇津の山にいたりて、わが入らむとする道はいと暗う細きに、蔦楓は茂り、もの心ぼそく、すずろなるめを見ることと思ふに、修行者あひたり。「かかる道はいかでかいまする」といふを見れば、見し人なりけり。京に、その人の御もとにとて、文書きてつく。】
駿河なる 宇津の山辺の うつつにも
夢にも人に 逢はぬなりけり
のかなりはっきと物語の舞台を限定出来る場所なれば
かの平安時代にタイムスリップしたる
感覚をもちけり。
※「すずろなる」とは現代語に訳せば
「怖き目に」「恐ろしき」くらいであらうか。