新編・伊勢物語 第六百五十五段 木魚殿 (後編) 星原二郎第六百五十五段 木魚殿 (後編) おん前の 脇にしあれど ほとほとに 顧みらるる ことなき木魚 幾年を 叩かれ続け 禿(はげ)たれど 読経の時に なくてはならぬ 禿たれば 木肌むきだしの 額(ひたい)にて 瘤(こぶ)なつくりそ おん身いとへと 歌集に載せしは以上なり。 古来より釈教歌は数多(あまた)あれども 脇役の木魚を主役に据ゑての連作を知らざり。 されば、本邦初と覚ゆ。 作品、多く擬人法を用ひぬ。 人にしあらば、長年にわたりての修行 さぞや高僧に成り得ぬであらうとぞ覚ゆ。