第六百二十一段 忘れ得ぬ味(其の壱)
昔、男ありけり。今も男あり。
その男、平成二十九年
知立文化協会所属の短歌グループ
【立春】の五年に一冊発行の
歌集『池鯉鮒野Ⅱ』に連作
【忘れ得ぬ味】三十三首もて参加せり。
主題は当然の事ながら、食べ物の事にして
料理番組の下手な芸人の
「美味い」「おいしい」「甘い」の
言葉を用ゐず、読者子に
其の食材を食べに行きたくさせるかが狙ひなり。
ではその男の忘れ得ぬ味の料理の
歌とは
北海道 宗谷岬の 荒海に
採れし帆立の 美味にまた飲む
今宵飲む 酒は津軽の 弘前か
「花吹雪」やや 辛口にして
隣家より 御裾分けとて 卯の花の
料亭の味に 舌鼓打つ
中仙道 大井の宿の 御幣餅
「あまから」とふ店の 胡桃のたれよし