第六百十七段 軽井沢にて
昔、男ありけり。今も男あり。
その男、平成二十九年の夏の終はり、
惚れたる女を伴ひ軽井沢へと行きけり。
行きて歌を
樅の木に 絡まる蔦の 色づきて
軽井沢は早 秋くるらしも
軽井沢の 落葉松林に 秋の風
寂しからずや 二人し歩む
軽井沢の あした歩めば 山鳥の
声聞こえ来る 秋はよろしも
と、詠み 数多の人出にて賑はひを見せし軽井沢も
秋風と共に、軽井沢銀座をそぞろ歩きの人影も
まばらとなれば、堀辰雄の小説「風立ちぬ」を
思ひ浮かべけり。