第六百十段 姉への挽歌 其の弐
美しき 死顔にして 穏やかなる
姉に対へば 別れ辛しも
四人なる わが兄弟の 姉なれば
頼りて来しが 残されにけり
幼くて 逝きし弟の 今居らばと
願ふ悲しみを この歳に知る
今宵酌む 酒の器は 姉の手に
焼きたるものぞ 共に飲ままし
面差しの 変りたる姉の 夢を見き
黄泉戸喫の 所為にかあらむ
※黄泉戸喫とは、黄泉の国のかまどにて
煮炊きせし物を食する事にて、
此の食事をせし者は完全に死者の国の者となり
再び現世には戻りえ得ぬなり。