新編・伊勢物語 第五百八十八段 安城の梨 星原二郎第五百八十八段 安城の梨 昔、男ありけり。今も男あり。 その男、平成二十九年の梨の実のみのり出廻る頃、 名菓「豊水」を買い求め、仏壇に供へ 歌を 夏来(さ)れば 祖父がふるさと 安城に 穫れし梨よと 甘きを供ふ と、祖父をはじめご先祖様に供養と捧げけり。 なほ旬の果実には 走り、盛り、名残り、終はり の四つの「り」あり。大和言葉の音韻のもつ 味はひ深きを果物だけに噛みしめけり。