第五百八十一段 事任八幡宮に詣でて
昔、男ありけり。今も男あり。
その男、掛川にある言霊を祀る事任八幡宮に詣でけり。
事任八幡宮の主祭神は己等乃麻知比売命なり。
ことのまちの「こと」とは「事」と「言」にて
まちは「真知」にて、真を知る神様にして
言葉にて事を取り結ぶ働きをもたらす、
まさに言葉の神様なれば恭しく詣でて歌を
願ひ事 思ひのままに 意のままに
叶ふとぞいふ 神に何祈む
わが知らぬ 言葉と出会ひ 調ぶるを
惜しまぬ労を 矜持としつつ
夏空の 高きに聳ゆる 事任の
神杉仰ぎ こころざし告ぐ
聴診器 あらばと思ふ 大楠の
水揚ぐ音の 聞かま欲しけれ
と詠み 懇ろに頭を下げ
罷り出でけり。