第五百五十九段 学生時代
昔、男ありけり。今も男あり。
その男、学生時代を名古屋市中村区稲葉地にて、
四年間を過ごしけり。
六十の齢となり、懐かしく覚ければ
その地を数十年ぶりに訪ねけり。
住みたるアパート、今もそのままあれば
しばし思ひ出にひたり歌を
庄内川 川幅広く 流れゐる
名古屋の西の 住まひ懐かし
養老の 山脈見ゆる 住まひにて
六畳一間 今誰が住むや
と 詠み「光陰矢の如く、学成り難し」との
唐の詩人の嘆きを古来より変らざる無常観と
受け止めけり。