第五百二十三段 鹿教湯の五台橋
昔、男ありけり。今も男あり。
その男、平成二十九年の初夏、信州は鹿教湯温泉へと行きけり。そこに流るる川を内村川といふ。
しかして、その内村川に架かる橋を五台橋とぞいふなり。
屋根のある珍しき橋にて、その橋の向かうは異なる世界なれば、渡りて歌を
内村川 結界となし 往還は
保証のあらぬ 五台橋なり
五台橋 渡ればここは 異界にて
温泉薬師の 苔のみ堂や
青葉燃ゆ み堂の前の 木洩れ陽に
うつつか夢か 薬師まします
橋を往き 橋を戻りて 現とも
夢とも聴こゆる せせらぎの音
と、詠み 無事に戻れしことに安堵を覚えけり。