第五百二十四段 鹿教湯のむささび棲む宿
昔、男ありけり。今も男ありけり。
その男、平成二十九年の初夏、信州は鹿教湯温泉へと行きけり。
行きて老舗の宿を取りけり。
その宿、むささびの棲む宿なれば、
歌を
浴みてよし 飲みてよろしき 鹿教湯にて
むささびの棲む 宿に泊らむ
古山毛欅の 洞に棲み経る むささびと
窺ひ待てど 現はれ出でず
小夜更けの 露天のいで湯 浴みをれば
鼯鼠現はれ 須臾に去りたり
夜の闇に 眼光らせ むささびは
俊敏なりき 撮る間もあらず
と、詠み 木から木へと飛び移る様を見たかりしと
願へど、無理なることと知り諦めけり。