第五百十段 清内路の黒船桜
昔、男ありけり。今も男あり。
その男、平成二十九年の四月の下旬
信州は清内路の黒船桜を観むと行きけり。
時あたかも見頃にて、見事なる桜花を鑑賞し
歌を
清内路の 黒船桜 いま見頃
花の下には 屍体累累
と詠みけり。
「櫻の樹の下には屍体が埋まってゐる」とは
梶井基次郎の『檸檬』の書き出しで有名であるが
黒船桜は山の斜面の小高き墓地の上なれば
ペリー提督が率ゐる黒船が来たりし年に
植ゑられしとふこの桜の下には
数多の屍体が有りし事は疑ふ余地は
無き事と肯ひけり。