新編・伊勢物語 第四百四十一段 知床の冬(前半) 星原二郎 第四百四十一段 知床の冬(前半) 昔、男ありけり。今も男ありけり。 その男、厳冬期に知床へ行きけり。 行きて、歌を 斜里岳は 雪を鎧(よろ)ひて 冬さ中 近寄り難き 威厳を具(そな)ふ 羅臼岳 高くしありて 最涯の この知床を 統(す)べゐるならむ 悠々と 番(つがひ)の大鷲 羽根ひろげ 北の王者の 風格を持つ 蝦夷鹿は 厳しき寒さに 耐へゐたり いのち逞し 雪掘り草食む 樺太と 氷につながり 徒歩(かち)にても 渡り行き得む 錯覚おぼゆ