新編・伊勢物語 第四百三十九段 流氷(前半) 星原二郎第四百三十九段 流氷(前半) 昔、男ありけり。今も男ありけり。 その男、厳冬期 オホーツクの海を埋め尽くす 流氷を見むと行きけり。行きて歌を 一面の 氷の海を 砕き進む 「おーろら号」の デッキにいま立つ 氷点下 十度を下まはる 気温にて 風は頬刺し 痛く冷たし 船に付き 鴎・海猫 餌をねだり 間近く迫り 眼合ひたり 棚氷に 腹這ふ二匹は 海豹(あざらし)か 船近づけど 恐れずにをり この沖の 深き海底 暗からむ 如何なる様に 蟹は群れゐむ