第四百三十四段 鳳来寺にて
昔、男ありけり。今も男ありけり。
その男、平成二十九年の寒さ厳しき頃、奥三河の
鳳来寺へと行きけり。
行きて、歌を
鳳来寺 千四百余の 石段は
無理と知りつつ 傘杉仰ぐ
傘杉の 幹の太きに 手触れたり
長き命の ちから分けませ
一月尽 三河の山は 眠りゐて
鳳来寺の気を 深く吸ひ込む
大杉の 高枝の秀に 鳶一羽
孤高を守り しばし動かず
と、詠み、鳳来寺開山の祖、利修仙人の行ひしと
伝はる厳しき修行に思ひを馳せけり。