第三百九十七段 磐代にて有馬皇子を悼む
昔、男ありけり。今も男ありけり。
その男、万葉集の悲劇の歌人の有馬皇子の処刑の地
磐代を訪ねけり。そこにて歌を
久しくも 思ひ来りし 磐代の
浜近づけば 心昂ぶる
陽狂の 皇子のみ心 思ほへば
傷ましきかも 結松の碑
結松の 記念碑を前に 潮騒と
冬のはじめの 松風を聞く
松が枝を 引き結ぶとは 思ほへど
さだかならねば 去り難くをり
幣帛を 二本の松の 枝の間に
強く結びて 願ひしものか
松が枝の 二枝反らし 交差させ
連理に願ひを 込めしとも思ふ
と 詠み 有馬皇子の冥福を祈りけり。合掌。