第三百四十九段 那須に仰ぐ月
昔、男ありけり。今も男ありけり。
その男、那須の大丸温泉へと行きて
望月の冴えたる夜となれば
歌を
雪雲の 風に千切れて あらはるる
那須天心の 清らなる月
天心の 清らなる月 ながめては
心ゆくまで 湯に浸りけり
露天湯に ひたりて仰ぐ 那須の月
晧々と冴え 更けゆくものか
大丸は 乃木希典の たびたびも
訪ねし湯にて 形見遺れる
と 詠み 乃木希典大人を偲びけり。