第三百五十段 殺生石
昔、男ありけり。今も男ありけり。
その男、那須大丸温泉に宿泊の翌日
「白面金毛九尾の狐」の
伝説をもつ殺生石を訪ねけり。
そこにて歌を
木枯しは いたくな吹きそ 殺生石
那須篠原に 見むとて行くを
殺生石 白面金毛九尾なる
妖しの狐の 果と見入るも
殺生石 妖しの狐の 果なれば
石とはいへど 近づきがたし
殺生石の 石原を吹く 風いたく
那須野に早き 冬は来向ふ
と 詠み 芭蕉翁が「奥の細道」の途中
わざわざ遠回りして立ち寄りし理由を知り頷きけり。