新編・伊勢物語 第三百四十五段 御嶽の土産 星原二郎第三百四十五段 御嶽の土産 昔、男ありけり。今も男ありけり。 その男、平成二十八年の初秋の頃、木曾御嶽の旅を終へ 家路に就かむとして 歌を 塩ならぬ 乳酸醗酵の 漬物の 野沢菜すんき 家(いへ)包(づと)とせむ と、詠み 当地にては「金は貸すとも、塩貸すな」の 言ひ伝へが示す様に、高価にして貴重なる塩を用ゐず 冬の保存食として考へられ、食べられ続けられ来し 「すんき」をひと包み購ひけり。