第三百三十八段 木曾駒牧場
昔、男ありけり。今も男ありけり。
その男、平成二十八年の初秋の頃、木曾御嶽の麓の
木曾駒牧場へ行きて、
歌を
天高く 木曾駒肥ゆる 季ならむ
高原の風に 靡く鬣
秋の牧に 首垂れのどに 草を食む
御嶽の上の 碧空澄みて
嘶きを 秋空高く 響かせて
四肢の肉群 躍らせて駆く(若駒)
出土せし 埴輪の馬の 形なる
木曾の馬かも 牧場に憩ふ
と、詠み 牧場の木の柵に身を預け
自らも馬になりたる心地にて、眺め続けけり。