第三百三十七段 木曾駒に跨りて
昔、男ありけり。今も男ありけり。
その男、平成二十八年の初秋の頃、木曾御嶽山の麓の
木曾駒トレッキング・センターへ連日 行きて歌を
馬上より 眺むる秋の 御嶽の
山の姿よ 雲の形よ
迅きこと サラブレッドには 敵はねど
背に跨り 風を受け駆く
人間に 準へしかば 九十歳
春栄ばあちゃんの 背に跨る
手綱取り 右に左に 進めかし
意のままならねど 馬はかはゆし
進まむは 速きが故に たふとしと
思ひ違ひの ひと多きかな
と、詠み ゆっくり行く馬との散歩を楽しみけり。