新編・伊勢物語 第二百九十九段 知立駅前にて 星原二郎第二百九十九段 知立駅前にて 昔、男ありけり。今も男ありけり。 その男、名鉄の知立駅に程近き所に住みけり。 知立駅を利用し、 或る日の出来事を歌に 駅前に 人待ち顔の 男ゐて 煙草を銜へ 時計見てをり 眼の合ひて 軽く会釈を 交はせども いづくの人か 思ひいださず と詠み 人忘れ 物忘れ つまり痴呆症の初期段階かとも 思ひつれど、詮方なき事なれば、此の事も 歌に詠みし事も