第二百八十六段 旅ゆくは
昔、男ありけり。今も男ありけり。
その男、旅を好む男なりけり。
して、普段は独り暮らしなりけり。
朝ごと、仏壇に回向するが慣ひの男なるけり。
困りたるは旅の折に回向が出来ぬことと思ひたり。
しかして、思ひたちたるは仏壇の御先祖様のみ魂を率て
旅ゆくことなり。
本尊の釈迦牟尼には留守役を依頼し
一族郎党を引き連れて旅をしにけり。
その折に、歌を
旅ゆくは 独りにあらず み祖らの
み魂ぞろぞろ 引き連れてゆく
と 詠み 個性集団を引率して行く大変さを知りけり。