第二百八十五段 毀されむ
昔、男ありけり。今も男ありけり。
その男、東海道五十三次の池鯉鮒の宿の脇本陣跡地に住みけり。
再開発とて、ビル建設され周囲変り行くは時代の流れと
受け止めつつも、少なからぬ寂しさを覚ゆれば、
その思ひ歌に
街道の 宿場の面影 留めたる
この界隈も 変らむとする
木造に 黒き瓦の 屋根多く
庭木配して 美しき町
戦災に 遭はず残りし 格子戸の
家並も今や 毀されむとす
と 詠み 重機の圧倒的なる力もて進む作業を
立会ひ、見続けけり。