第二百六十九段 続・近鉄沿線
昔、男ありけり。 今も男ありけり。
その男、惚れたる女ありけり。
その女、伊勢の国の松坂に住めば、三河の国の池鯉鮒より
通ひけり。通ひつつ 歌を
亡き祖父が 「その手はくはな」と 言ひゐしを
桑名通れば 思ひ出づるも
桑名なり 焼蛤と 時雨煮の
「貝新」の看板 目立ちありけり
四日市 高き煙突 並びゐて
煙は今日も 立ち登る見ゆ
四日市に 采女町とふ ところあり
美しきひと 出でしにあらむ
と 詠み 古代の采女を連想させる
ひとの元へと通ひけり。