第二百五十五段 母は真田の姓にて六文銭
昔、男ありけり。 今も男ありけり。
その男、平成四年二月二十七日に母を静脈瘤破裂に
喪ひてをり。爾来、年月流れけれど慕ふ気持ち強く
なりて、歌を
母方は 真田の姓にて 六文銭
紋にいただき 奥三河なり
幾人を みとり逝かせて みづからは
朝に倒れ 夕は逝くも
ふるさとの 庭にみのれば この小さき
零余子も母の 思ひ出のもの
祖父祖母に 夫に子供に つくしつつ
働き通しき 母のひとよは
と、詠みて黄泉の国までも逢ひに行きたく思ひけり。