第二百五十六段 蜘蛛の巣
昔、男ありけり。今も男ありけり。
その男、一人マンションに住まひけり。
ある朝、玄関を出でなむとせし時に行くを遮るやうに
蜘蛛の巣、張られてゐたり。出で行くに払はねば
、叶はぬ由に払ひけり。
かかる時に思へるは、蜘蛛なる生き物
生きる為には巣を張るしか術なきことなり。
しかして、人はといへば蜘蛛の巣を殊の外に嫌ひ
払ふことにつとめ来にけり。このことに思ひ至りて
歌を
張るものと 払ふものとの 戦ひは
とはに続かむ 蜘蛛と人とは
と 詠み 生きるとは戦ひであり、
戦ひが歴史の本質と思ひけり。