第二百五十段 弟
昔、男ありけり。 今も男あり。
その男、四人兄弟の次男なり。して五歳年下の弟
出産後、数日を経て夭折しにけり。 悼む思ひ年毎に
深くなりゆきて歌を
数日の この世のいのちの 弟の
奥津城に来て 名を呼ぶ吾は
奥津城に 「三男」「三男」と 名を呼びて
汝なれば如何にと 相談したし
うつしゑの 一枚もなく 顔を
知らねば浮かばぬ 弟なれど
母に聞きし 弟のことは わづかにて
確かなること 五つ下なり
医療ミスに 逝きし弟と 聞きしかど
定かなること 姉も知らざる
幽明を 隔てて四人の 兄弟の
ふたり残りて 姉と詣づる
と 詠みて移し終へたる仏壇を前に冥福を祈りけり。