第二百四十八段 雨乞ひ師
昔、男ありけり。今も男ありけり。
その男の住む地域、深刻なる水不足に陥りけり。
してその男のもとに雨乞ひの歌の依頼ありけり。
糟谷磯丸に倣ひ本歌取りの歌を
尊さは 限り知られじ 大地に
雨降らせ給へ 八大竜王
と詠みければ程なく雨降りけり。しかして、雨降り続きければ
雨乞ひならぬ雨停止の歌の依頼ありけり。歌浮かばねば源実朝の
歌である
時により 過ぐれば民の 嘆きなり
八大竜王 雨止めたまへ
と、唱へければ雨止みけり。してまた旱続きけり。しかして
またまた雨乞ひの依頼ありけり。「ほどほどに雨を降らせ給へ」と。
その男、かかかと笑ひ、それでは商売にならぬと応じざりけり。地域住人は天候の事は天に逆らへず、任せて従ふが良きと覚えけりとぞ伝はりけり。
諾ふばかりなりけり。