第二百四十六段 天の真名井
昔、男ありけり。 今も男ありけり。
その男、出雲の国の神話の名水である
「天の真名井」へと行きけり。
名水を味はひ、歌を
大山の 山裾に湧き 村里の
水車を閑に 廻し流るる
真日の下 歩み来たりて 真清水の
天の真名井に 喉潤す
きよらかに 澄みて冷たき この泉
神のみ代より 湧きやまぬらむ
家苞と 天の真名井の 水汲みて
二合余りを 器に収む
養殖の 鱒のあまたを 育てつつ
天の真名井の 豊けき流れ
と 詠みて古代を思ひつつ名水の里を去りけり。