第二百十段 青荷温泉のランプの宿
昔、男ありけり。 今も男あり。
その男、平成二十八年の初夏
八甲田山へと行き、青荷温泉に宿を取りけり。
ここはランプの宿なり。してその印象を歌に
八甲田の 山深ければ 今になほ
電気来たらず ランプをともす
はつはつに 明るきランプの 火影揺れ
酒の肴は 岩魚なるらし
岩魚棲む 浅石川の 吊り橋を
渡りて露天の いで湯に行かむ
惜しみなく 真澄のいで湯 流れ入り
はた溢れては 川に下りつ
谷川の 音のみ聞こゆる 宿なれば
夜来の雨を 知らずにい寝し
雨に濡れし 楓の青葉 色冴えて
秋もよからむ ランプの湯宿
と 詠み 八甲田山の秘湯を心ゆくまで浴みにけり。