第二百九段 八甲田山
昔、男ありけり。 今も男あり。
その男、平成二十八年の初夏、八甲田山へと行きけり。
深田久弥氏の『日本百名山』のひとつにして、
あこがれ強ければ歌を
安々と ロープウェーに 登り来て
八甲田山頂 蜻蛉群れをり
椴松は 背丈の低く 並びをり
雪深かければ 伸びず年ふる
かのあたり 雪中行軍 遭難の
ところと聞かば 冬の偲ばゆ
見はるかす 津軽平野に 聳え立つ
岩木山かも 裾を広げて
熊笹の おほひ繁れる 八甲田に
遠山彦の 声を聞きたり
山頂は 遠世に変らず さゐさゐと
熊笹渡る 北よりの風
と 詠み 登山家である深田久弥氏に冬の八甲田山での
遭難を防ぐ方法などを議題に会談の
時を持ちたきものと願ひけり。