第百八十四段 屋久杉
昔、男ありけり。 今も男あり。
その男、屋久島の縄文杉にまみえむと思ひ
友を伴ひ行きけり。
屋久島の縄文杉にまみえ 歌を
屋久杉に いのち永らへ 生くることの
意味を問ひつつ 尋ね来にけり
人の世に 煩ひゐるは 小さきこと
諭すがごとく 黙し立つ杉
七千年 生きながらへて 今になほ
青葉繁らせ 生気あふるる
見上ぐれば 聖の如き 貌を持つ
縄文杉はも 近寄り難く見ゆ
と 詠み 縄文杉との交感に時の経過を忘れけり。