新編・伊勢物語 第百六十七段 濃姫の泪 星原二郎第百六十七段 濃姫の泪 昔、男ありけり。今も男あり。 その男、平成二十八年の春爛漫の頃 琵琶湖のほとり、安土へと行きけり。 行きて安土城跡の山を登り 本能寺の変にて、主の信長公を喪ひ、今まさに 炎上の城に残りたる、蝮と恐れられた斉藤道三の 気丈夫なる娘の濃姫の末期を思ひ歌を 炎上の 五層の天守の 小(ち)さき窓 濃姫の目に 泪はありや と 詠み 歴史から消え去りし悲運の 姫の身の上を偲びけり。