第百六十段 隅田川
むかし、男ありけり。 今も男あり。
その男、平成二十八年の春、隅田川に桜を賞で
舟遊びしにけり。
「伊勢物語」の「名にし負はばいざこと問はむ
都鳥 わが思ふ人は ありやなしや」
の歌、心にあらば、いにしへの様思ひ描きて歌に
都鳥 五六羽漂ふ 隅田川
思ひゑがくは 旅の業平
東京の ビルの彼方に 沈む日を
屋形船より ながめて飽かず
隅田川 たゆたひ航けば なほさらに
酔ひここちよき このゆふべかも
御台場の 石垣の上に ふたりゐて
幕末遠く 静かなる波
と詠み、隅田川の川岸に佇つ在原業平の
旅の姿を思ひ浮かべけり。