第百五十五段 石と岩と巌 丈山苑の大石
昔、男ありけり。今も男あり。
その男、平成のある年、安城は和泉の里の丈山苑へと行きけり。
そこは京都の詩仙堂の主である石川丈山の生誕の地なり。
かの徳川家康公に仕へしが、大坂冬の陣にて先駆けを咎められ
あっさりと武士を捨てし人なり。
そこにある大石に腰を下ろし
歌を
戦国の 世に武士捨てて 雅のまこと
もとめしひと思ふ 石に座りて
と、詠み 武士にては名を残さず、雅の道にて名を残すも
囲碁の世界にていふところの「これもまた一局」に準へしかば
「これまた見事の一代」と思ひけり。