第百三十九段 人生の羅針盤
昔、男ありけり。今も男あり。
その男、惚れたる女あり。その女、齢五十半ばにして
それまで勤めたる福祉関係の職場をやんごとなき理由に因り
去りけり。しかして日を措かず新たなる職場に勤め始めけり。
その変り身の鮮やかさに尊敬の念すらいだきけり。
してその男がその時その女にいだきたる想ひを歌に
汝が持つ 人生航路の 羅針盤
正確無比に 大海を航く
と、詠みけり。
その後、わが身を顧みて続けて歌を
われが持つ 人生航路の 羅針盤
おんぼろにして 荒海を航く
と、詠み その違ひを嘆きつつも、ゑにしの続く事を
願ひけり。