第百二十六段 辞世
むかし、男ありけり。今も男あり。
その男、三河に生まれ、三河の地にて暮らし、
死なむことを望みけり。
三河こそ、海あり山あり、山海里川の幸に恵まれし土地と
信じ住み果てむと望みけり。
しかしてその男、いつの日にか来る死を意識して
数首の歌を遺しけり。
願はくは 三河の地にて われ死なむ
その年齢季節 理由を問はず
奥三河 わが魂の ふるさとぞ
豊川かみの 山に還らむ
棺こそ タイムマシンと あくがるる
卑弥呼に会はむ その日待たるる
本家の「伊勢物語」百二十五段の
「つひに行く 道とはかねて聞きしかど
昨日今日とは 思はざりけり」にて終はれども
「新編・伊勢物語」はこの辞世の第百二十六段以降も
当面、世を去る予定はなく
書き続けむつもりなりけり。