新編・伊勢物語 第百二十三段 続・奥飛騨温泉 星原二郎第百二十三段 続・奥飛騨温泉 むかし、男ありけり。今も男あり。 その男、鰥夫(やもを)なりしが惚れたる女ありければ 奥飛騨のいで湯へと女を誘ひ行きけり。 後(きぬ)衣(ぎぬ)のひと時、雪の高き山々を眺め賞でつつ 露天のいで湯にひたり寛ぎゐたり。 女、曰く「今が一番佳きなり」とふ言葉を聞きて 男、すなはち歌に 人生は 六十歳が 頂点との 論をいで湯に 君と諾ふ と詠みて、今ぞまさに人生の至福の時とも思ひけり。