第百二十二段 奥飛騨温泉
むかし、男ありけり。今も男あり。
その男、平成二十八年の早春、惚れたる女を伴ひて
奥飛騨温泉郷へと行きけり。
時のつれづれなるままにロープウェーに乗りけり。
下を見やれば大熊
穴を出でて歩みゐたれば即興の歌を詠みけり。
冬眠より はやも覚めてか 大熊が
雪の斜へを 歩きゐる見ゆ
その後、いで湯の宿にチェック・インし、
共に皓皓と照る満月を広き露天風呂より眺めれば、
女、男に歌を詠めといひければ、即ち男、詠みけり。
たそがれの 槍ヶ岳の秀の上に 澄む月を
蒲田川辺の いで湯に君と
と詠みての後、共にいで湯を上がり、部屋へと戻りけり。