第百二十段 五十音の歌(前半)
むかし、男ありけり。今も男あり。
その男、平成二十八年のある日、つれづれなるままに
五十音の歌を詠みけり。
あいうえお 愛に飢ゑたる 男ゐて
誰のことかと いへば吾なり
かきくけこ 柿暮れ方に とらむとて
木に登りしが 見惚るる夕日
さしすせそ 差しつ差されつ 酌み交はす
今宵は汝と 差し向かひつつ
たちつてと 立ちつ座りつ 手と目もて
小学校の 教師と子供
なにぬねの なに縫ふ人と 見遣りなば
千人針か 虎と還り来よ