第百十七段 旅の衣装
むかし、男ありけり。今も男あり。
その男、旅をこそ人生と考へけり。
ある日、旅の衣装に思ひを寄せて
歌を
夏なれや 小千谷ちぢみの 作務衣着て
旅に出でむよ 北に向はむ
秋されば 阿波の藍染 作務衣着て
旅に出でむよ 西に向はむ
と詠み、作務衣を
定番の衣装として、旅を行きけり。
【蛇足ながら、秋さればの《去る》には《来る》の意味が古来より有り、この歌の場合も《秋来れば》の意なり】
秋されば…の歌、秋のa 阿波のa藍染のaの音韻、良からずや。