第百七段 豊川の羽衣伝説
むかし、男ありけり。今も男あり。
その男、平成二十八年の立春を少し過ぎし頃
豊川中流域にある羽衣伝説の「羽衣の松」を
見に行きけり。
何代目かの松にて、やや若く、否、幼さ残りて
幹細く、枝ぶり貧しき松なれど、歌を
この地にも 羽衣伝説 つたはりて
春の陽きらめく 豊川見やる
と詠み、天より舞ひ降り、水浴び遊ぶ
若き天女と物陰より見守り、松の枝より
羽衣を隠しし村の若者の姿を煌めく水面に
思ひ浮かべけり。