第百五段 九世代に亘り
むかし、男ありけり。今も男あり。
その男、五人の孫に恵まれけり。
岐阜と東京にそれぞれ離れて暮らせば
時折 訪ねけり。
訪ねて、その男の家に
伝はりし物語を話し聞かせけり。
ある日 寝物語を聞かせ終へ、歌を
祖父が その祖父より聞きし 物語
孫に語りぬ その孫に伝へよ
わが孫に 語り伝へむ 祖父母より
聞きたるみ祖の 幾人のこと
と詠み、その男の家に伝はる物語は、
祖父の祖父の世代から、孫の孫の世代へと
つまり九世代に亘り語り伝へられゆく事を
切に願ひけり。