第百三段 浅間嶺と千曲川
むかし、男ありけり。今も男あり。
その男、「伊勢物語」を読みて浅間嶺の段の歌
「信濃なる 浅間の嶽に 立つけぶり をちこちの人
見やはとがめぬ」に心ひかれければ、尋ね行きけり。
して、歌を
千曲川 名に負ふ如く 曲がりつつ
秋を迎へて 煌めく川面
浅間嶺に 降りしが浸みて ここに出づ
千曲川のや ここぞ源(白糸の滝)
浅間嶺は 秋の山かも 雲白く
さやけき風に 揺るる秋桜
信濃なる 浅間の嶽に 立つけぶり
今も変らず 見れど飽かぬも
と詠みて、信濃を旅する在原業平を偲びけり。