第九十八段 わが三河
むかし、男ありけり。 今も男あり。
その男、東三河に生まれ、東三河に育ち
西三河に住めば
三河に死ぬことを望みけり。
その思ひ深ければ歌に
わが三河 わが海山は 穂の国ぞ
豊の国ぞと 今に伝はる
三河なり われの生れて 育ちしは
豊川清く 流るるところ
海近く 山また近き わが町は
穂の国造の 住みゐしところ
わが三河 いつよりひとの 住みたるか
定かならねど 血を受け継ぎぬ
東三河が 邪馬台国とふ 説ありぬ
信じ難けれど おもしろきかな
まぼろしの 三河風土記 ありなばと
思ひめぐらす 冬の夜かな
と詠み、「三河」の語源は「三つの河の流るる地」に
あらず、「美しき川の流るる地」の「美河」説を支持し
わがまほろばの地と思ひけり。