第八十六段 望郷の湯
むかし、男ありけり。今も男あり。
その男、平成二十八年の冬、信州は北にある
日帰り入浴施設「望郷の湯」へと行きけり。
生憎の悪天候に売り物の展望は叶はねども、歌を
展望は 霧に隠れて のぞめねど
「望郷の湯」に ふるさと偲ぶ
と詠み、その男の故郷は三河なれども
信州の山深き里を「心の故郷」とも思ひけり。
また「望郷」との言葉にフランス映画の
ジャン・ギャバンを連想せしが
関はりは無きやうなれど、
意外や意外、湯の命名者は
フランス映画ファンとも由来を思ひ浮かべけり。
しかして、快晴の日に再び訪ね
絶景を眺めむことを願ひけり。