第八十四段 田木畑木
むかし、男ありけり。今も男あり。
その男、平成二十八年睦月の或る日
甲斐の国は須玉の町の
江草の里の二本の大欅を訪ねけり。
一本を田木といひ、一本を畑木とぞいふ。
田木が畑木より早く芽吹くと、田に稔る稲が豊作となり、
畑木が田木より早く芽吹くと畑の作物が豊作になるといふ。
かかる言ひ伝へを見聞し、即ち歌一首を
千歳を 芽吹き互ひに 競ひ来し
欅ふたもと 今年も繁れ
と詠み、田に稔る稲 畑の作物
共に今年の豊作を願ひ奉りけり。
しかれど、今年は何れが早く芽吹くやと
気に掛かりければ芽吹きの候
再び訪ねむと願ひけり。