第七十五段 風樹の嘆
むかし、男ありけり。今も男あり。
その男の父親、一月八日生まれにて
生きてあらば九十歳、つまり卒寿のお祝ひの
平成二十八年一月八日を迎へ、歌を
生あらば 卒寿の祝ひの 父にして
いまさらながら 聞かむすべもがな
と詠み、中国の古典「風樹の嘆」の
「樹静かならんと欲すれども風止まず、
子養はむと欲すれども親待たざる也」
の意の
「孝養を思ひ立ちし時、既に親は死後にして孝養を
尽くす事が出来ぬ」をしみじみと思ふと共に
子孫に語り継ぐべき事柄の多くを
聞き損ひしとの思ひあらば更に嘆きを深めけり。