第六十三段 聖誕祭、貴女へのメール
昔、男ありけり。今も男ありけり。
その男、惚れたる女ありけり。
然れども、縁うすく別れし後も年に二度
それぞれの誕生日ごとにメールの遣り取りを続けけり。
その女の誕生日である十二月二十五日、つまり聖誕祭の朝
例年の如く男より、女のもとへ祝ひの歌をメールに託し
贈りけり。
わが命 つきぬ時より わが胸に
生きます君の 消ゆるを怖るる
時を置かず、歌ごころある女なれば返歌 届きけり。
わが命 死ぬる時まで わが胸に
生きます君を なしとせなくに
男、そのメールを保存ホルダーに移し替へ
いまさらながらに縁の薄きを恨みつつも
その<思ひ>を大切に抱き続けむと誓ひけり。